スキー場跡地 in 2014

 経営難に陥って閉鎖されてもスキー場はスキー場。そこでは滑走に適した斜面が無料で開放されているようなものなので、お金のない私のような人間は、山スキー練習のために大変恩恵を受けております。ということで、先日も後輩を連れて行ってまいりました。

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 前回の訪問から一年経ち、風景からはリフトの支柱が消えていることに違和感を覚えます。ただ放置されているわけではなく、徐々に撤退作業が進んでいるらしいのです。今後、この土地はどのように管理されていくのか、来年以降も貧乏山スキーヤーは恩恵にあずかることが出来るのか、注目すべき問題です(笑)。

 厳冬期の中にあって寒く、山並みがあまねく白に覆われて綺麗です。青空は冷たい金属のような無機質さを伴い、雪雲が常に待機しています。雨も雪も、降らせる雲は主に乱層雲ですが、雪雲は雲の輪郭がはっきりせず、もやもやとした印象があります。
 調べてみると、雪雲は雨雲よりも構成粒子として氷粒を多く含み、氷は水よりも飽和水蒸気圧が低いとのこと。そのため雪雲の表面では水蒸気の昇華がより頻繁に起こるために輪郭が曖昧になっている、との意見が提示されていました。また別のサイトでは、氷粒は軽いため舞い上がりやすく、それが雲の輪郭をぼやかしている、と書かれていました。どちらが本当なのか、あるいはどっちも本当なのかは確かなソースがないのでなんともいえませんが、原因が雲を構成する氷粒にあることは確かのようです。
 なお、氷は水よりも光を多く反射することで知られています。なんとなく、雪雲は雨雲よりも白っぽく見えるのですが、これも雲の構成粒子が関係しているのかもしれません。

 写真を見ても分かるとおり、この廃スキー場の中央部にある(なぜか)北側の斜面には、様々な幼樹が繁茂しつつあります。今回はシールを装着したスキーでよちよち歩きながら、どんな木が生えているのか観察してみました。すべて把握できたわけではありませんが、以下に確認された樹種を挙げてみます。

・シラカンバ(Betula platyphylla
・ウダイカンバ(B. maximowicziana
・エゾノバッコヤナギ(Salix hultenii var. angustigolia
・チョウセンヤマナラシ(Populus tremula var. davidiana
・ナナカマド(Sorbus commixta
・オノエヤナギ(Salix sachalinensis
・エゾヤナギ(Salix rorida
・ハリエンジュ(Robinia pseudoacacia
・カラマツ(Larix kaempferi
・ツノハシバミ(Corylus sieboldiana
・キハダ(Phellodendron amurense
・ハリギリ(Kalopanax septemlobus
タラノキAralia elata
ノリウツギHydrangea paniculata
イヌコリヤナギSalix integra
ミズナラQuercus crispula
・イタヤカエデ(Acer mono
シナノキTilia japonica
・タチヤナギ(Salix subfragilis
・イヌエンジュ(Maackia amurensis

 並び順は見つける頻度を不正確ながらなんとなく反映させています。構成樹種にはやはりパイオニア種やギャップ依存種が多いですね。ササが繁茂する天然の草地と比べると明らかに多様な種構成です。これはササの地下茎や葉による生育妨害がないためと考えられます。ササの存在は森林更新の大きな障害になるといわれていますから、廃スキー場は森林再生が比較的容易に進む場所なのかもしれません。
 ただし、森林が成長していく過程で多くの個体が枯死していくことが予想されます。特に本来沢筋などに多く見られるヤナギ類(エゾノバッコヤナギを覗く)は、環境条件上、今後もっとも淘汰されやすい樹種といえるでしょう。そもそもヤナギ類の種子は埋土種子化することができず、芽吹いても陽樹であることから、川原以外の場所ではたいていなんらかの光阻害を受け、疎開を待たずに死んでしまうと考えられます。その点、このスキー場ではまだ粋がる余地があったというわけですね・・・。
 若い木というと最近はシカによる食害が注目されており、調べてみると食害の強度は広い疎開地よりも林縁や林内で強いとする報告があります(Takatsuki 1989, 1992)。シカは本来草原環境に適応した動物ですが、森林率が高い(最近再び高まってきた)日本に生息する個体群は、森林を利用するようにさらに適応してきたと考えられます。そのため、実際に安全であると判断するか、本能的に安全だと感じる林内、林縁をシカは好むのでしょう。
 しかし草原の採食資源がシカにとって魅力的でないはずはありませんから、そこが安全だと学習すれば、やがてシカは雪のない夏に群れをなして森の中から出てくるかもしれません。この廃スキー場は人里から離れていますから、人間の脅威が感じられる場所ではありません。ここでシカはどんな振る舞いをするものか、興味のあるところです。ちなみに疎開地は林内と比べると光の条件がよいため、食害からの植生再生は比較的速いんだとか(Akashi 2009)。つよし、廃スキー場。

 木を観察していると、エゾヤナギに絡まったツルの先で見慣れない実がなっていました。持ち帰って調べてみると、どうやらガガイモ(Metaplexis japonica)のようです。

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 日本神話のなかでは、スコナビコナという神様が乗っていた舟として、ガガイモの実が登場します。たしかに、この実の殻は二つに割ると小船みたいです。
 この中には種髪という絹毛を伴った種子がたくさん入っています。残っていた分だけでも数えてみると、120個くらいありました。

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 これは風散布種子といえます。ウィキペディアによると、これをあのケサランパサランの正体とする説があるそうです。セイヨウオニアザミの種こそがケサランパサランの正体だと思っていた僕としては衝撃的でした。

 面白い。廃スキー場。