ああミネカエデ~この高潔なるもの~

久しぶりの投稿。最近僕はとある山奥に住み込みで働いており、このようにパソコンやインターネットや電気ガス水道などといった文明的な暮らしに戻ってくるのも大変久しぶりであります(一部誇張を含む)。
 
現在、山の上のほうでは僕の好きな花の中でも特に好きなものといえるこいつが咲き誇っています。
 
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もう一枚。
 
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これはタイトルにも書いた「ミネカエデ(Acer tschonoskii)です。
葉は幾重にも深く切り込みが入り、ほぼ無毛で、あまり高くならない木で、どことなく清涼感があります。
分布しているのは主に亜高山帯。
同所的に、同属で姿の似ているオガラバナ(A. ukurunduense)も見られますが、こちらは毛が多く、葉の形はミネカエデよりもフラットで、比較的分布域が広く、針広混交林にも普通に生えています。
そして、一番の違いは花です。
比較写真を撮っていないため、ほかのサイトから引用しますが、オガラバナの花はこんな感じに鈴なりです。
 
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wikipediaより
 
対してミネカエデも総状の花序ではあるものの鈴なりではなく、一つ一つの花をしっかりみることができます。
カエデというとあまり花のイメージはわかないかもしれませんが、よく見ると、決して派手ではないながらもしっかりと「花!」という自己主張を思わせる綺麗な形をしていることに気づかされます。
それぞれ同じような構造を取っているカエデ属の中でも、このようにミネカエデは特にお花らしいアピールをしているのです。
 
すこし拡大して見てみましょう。
 
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8本の雄蕊と、萼片・花弁あわせてだいたい10枚の花被片を目いっぱい広げています。
こじんまりして飾り気がないのに端正。しかも群れていない。
どうでしょう、僕はこの実直な姿に一種の気品、高潔さすら感じてしまうのですが。
花の中心にあるのは、花托が肥大化した花盤(flower disc)と呼ばれる器官です。
写真を見ても分かるように、花盤は何やらおいしそうに妖しく濡れております。
これは分泌組織をもつためで、花盤から出る蜜は虫を呼び寄せます。
つまりカエデ類は虫をポリネータにする虫媒花なのですね。
 
ところがwikipediaによれば、「カエデ類の花は風媒花」とのこと。あれれ、食い違いました。
そこで調べてみたところ、ピーター・トーマス著の「樹木学」(2001 築地書館)に納得の記述がありました。
曰く、カエデ類を含むいくつかの木々は基本的には虫媒花に分類できるが、多分に空中に花粉を飛ばしもし、複数の送粉経路を持つことで環境に対し柔軟に身構えているんだそうです。
wikipediaのいうとおり風媒の性質を持っていたとしても、実際に花から虫媒花の特徴が見いだされる以上、僕はこの本の言っていることを信じたいですね。
 
しかし、ミネカエデの花を見た感じ、あんまり風に花粉を乗せる子のようには見えません。
オガラバナは花の塊が風を受けて揺れそうなので、「風媒花だ」と言われてもまだわかります。
また、北海道の主要構成樹種のひとつであるイタヤカエデ(A. mono)なんかはこんな感じです。
 
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がっつりまとまった複散房形花序です。
この形態は虫へのアピールにもなるのですが、花柄の軟弱そうな感じをみると、これも風にだいぶ揺さぶられそうです。
そうやって考えていると、こんな仮説が浮かび上がってきます。
 
「同じカエデ属でも、その送粉手段は、局所的に分布する種ほど虫媒に傾き、広範に多く分布する種ほど風媒に傾くのかもしれない……!」
 
こういうの誰か研究してるのかなあ。まだないなら俺と協力して研究してくれないかなあ誰か。
 
なんて夢見ながら、僕は文明的な暮らしを楽しんでいます。
 
(追記1)森林総研に「イタヤカエデでは、空中花粉はほとんど認められなかった」とする研究がありました(https://www.ffpri.affrc.go.jp/labs/kouho/seika/1996/96-12.html)。おやおや。