スギの花粉対策について

明日とある資格の試験があり、今更令和5年の森林・林業白書を読み始めたので、勉強がてら特集されているスギの花粉について簡単にまとめてみる。

 

スギは日本の在来樹種であり、日本固有種といわれることもある。ちなみにヒノキ科であり、ヒノキ以外の主要な国内針葉樹(マツ、モミ、トウヒ:マツ科)とは科が異なる。

 

スギは品種が多様で様々な地域に育つこと、成長が早いこと、収量が多いこと、材が通直で加工がしやすく幅広い用途に使えることなどから、古くより人々に積極的に利用されてきた。

戦後は、里山・奥山の広葉樹林が積極的に伐採され、成長の早いスギを筆頭とする針葉樹が植えられる「拡大造林」が進んだ。これは、木材需要の増加と薪炭林や農用林の需要減少を背景とし、広葉樹のパルプ用材への利用技術発達がある種の契機となっている。これにより、人工林面積は2倍に増加し、スギはその4割を占めるに至った。

 

スギの花粉はアレルギーの原因となる。花粉が粘膜に付着すると、花粉から放出されたタンパクが抗原となり抗体が作られ、抗体が粘膜上の肥満細胞(マスト細胞)に結合する。アレルギー素因を持つ人の場合、長年かけて肥満細胞にびっしり抗体が結合すると、抗体の進入時に肥満細胞が活性化して花粉症の症状を引き起こすヒスタミン等を放出するようになる。

スギの花粉症は、拡大造林が始まり20年が経過し、植えられたスギが雄花をつけだすころから広がり始めた。現在では社会問題である。

罹患者にとっては、スギ花粉の多寡は重要な健康指標となる。スギ雄花が形成される6~7月の日照時間や気温が好条件だと着花量が増え、翌年の花粉が多い傾向がある。また、雄花がたくさん咲いた次の年は雄花が少ない。こういった知見を活かし、林野庁などでは花粉飛散量の予測を行っている。

ねお、スギの雄花は日当たりのいい林冠部(陽樹冠)に形成される傾向がある。林冠部の面積は林齢による差がない(さらに一斉林の場合は凸凹による表面積の差も少ない)ため、林齢による花粉量の差も明確には生じない。

 

スギ花粉の問題への対処として、直接的には花粉を産生するスギを減らすことが挙げられる。具体的方策のひとつは花粉が少ないスギへの置換である。成長が良好でかつ花粉の少ないスギを特定し、無花粉や少花粉の品種を開発したり、花粉の少ないエリートツリーから特定苗木を増産するなどの取組が進められている。こうした品種を早期に普及するためには、苗木生産の工程短縮が必要であり、ジベレリン処理等による生育促進や閉鎖型採種園の整備等が進められている。また、着実な進展のためには労働力確保、路網整備、生産性向上、集約化等の戦略的な推進といった体制づくりや、木材需要の向上も重要である。

林業生産に適さないスギ林は、伐採後に広葉樹林へと転換することも森林経営の観点から有効である。

こうした取り組みも重要な要素としつつ、全体としては適切なゾーニングによる森林の多面的機能(生態系サービス)最大化を目指していく。

このほか、雄花を枯死させる薬剤の散布や、減感作療法(アレルゲン免疫療法)の開発なども行われている。

カシワメオオニセハナフシ

カシワの枝先に、花のような虫瘤がありました。

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これはカシワメオオニセハナフシ。カシワメオオニセハナタマバチのしわざだそう(長い)。

冬芽に寄生されるのでカシワ からするとうんざりでしょうが、本当に花みたいな姿なので感心します。この様相は幼虫の保護に一役買っているのでしょうか。

なお、これは芽鱗が変形したものです。花びらも芽鱗も同じような組織が起源とされているので、花のように見えるのも納得です。

冬の風散布種子③ シラカンバ

雪が降った次の日、実家の玄関を出ると、小さなシラカンバの種が散らかっていました。いくつか持ち帰り接写してみるとこんな感じ。

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なんとも可愛らしい。

種は膜状の翼がある方で、調べてみると種子というより、これ自体が果実(堅果)なのだ、という記述がありました。触覚のように花柱が残っています。

果実じゃない方、鳥のような形のものは、果実を守っていた果鱗と呼ばれるものです。

ラカンバの木を見にいくと、まだ果穂がぶら下がっていました。

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枝に近い方から、果鱗と果実が少しずつ散布されているようです。

果穂の構造はこんな感じ。

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果実と果鱗が交互に、規則正しく、みっちり積み重なっていました。立体パズルのように見えます。

ラカンバは典型的な陽樹。この子達が明るい新天地を求めて飛び立っていくのですね。

冬の風散布種子② ガガイモ

冬の北海道散歩、こんなものも見つけました。

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蔓性草本、ガガイモの果実です。シャクヤクモクレンと同じ「袋果」に分類され、中にはたくさんの種と長毛が詰まっています。

この長毛はいわゆる綿毛(「種髪」と呼ばれるそう)です。種は綿毛と一緒に風で散布されるのです。

取り出してみると、綿毛はまだ互いにくっつきひとつの束になっています。

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しかし、毛の先端を指で撫でてみると、あっという間に開いてくれました。

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多分自然界でも、ちょっとした摩擦や静電気なんかで綿毛が開き、そのタイミングで飛んでいくのでしょう。

綿毛が飛ぶ姿は伝説の謎生物「ケサランパサラン」のようで、小学生時代には秋にこれを見つけるといつまでも追いかけていました。

当ブログでは下の記事でもガガイモを取り上げています。

https://ninkep.hatenablog.com/entry/34554488

 

ちなみに、ガガイモの花粉は集合して花粉塊というのを作るそうです。面白いですね。

https://mikawanoyasou.org/data/gagaimo.htm

冬の風散布種子① オオウバユリ

更新の間隔がオリンピックよりも開いてしまいました。お久しぶりです。

さて、この正月はひさしぶりに冬の北海道に帰りました。オホーツク海側なので積雪深はそれなりですが、雪景色はしっかりと味わってきました。

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新雪だと雪の結晶が形を保っています。それが様々な方向を向いてふんわり積っているため、天気が良いと歩く視界の端で結晶の反射がキラキラ煌めきます。

 

散歩の途中でオオウバユリに会いました。小群落のようで、雪の中から長い果穂がいくつも生えていました。写真はないのですがこんな感じ。

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なんだか砂漠に生えるサボテンみたいな装いでした。

ウバユリの果穂には、たくさんの種が詰まった果実(蒴果)が付いています。種は翼を持ち、晩秋に風で揺れた果実の中からバラバラと散っていきます。そのまま風に運ばれるので、種子散布型は「風散布」ということになります。

残っている果穂を覗くと、裂開した果実の中にはまだ種が残っていました。引っこ抜いて果穂を振ると、シャカシャカ気持ち良い音を立てながら種子が舞います。

両手で振るとマラカスのよう。先述の砂漠のイメージに引っ張られました(メキシカン)。

 

オオウバユリといえば、その球根(鱗茎)はアイヌの重要な食料となります。これはゴールデンカムイでも取り上げられていたようですね。

萱野茂アイヌ歳時記」によれば、収穫時期は赤ツツジの開花期で、その期間を葉の根元が切れて鱗茎を上手に掘り出せないんだとか。

ちなみにアイヌは、生計に役立つ植物を女性の神と捉えており、オオウバユリも女神「トゥレッ(プ)・カムイ」の化身と考えられてきました(山田孝子「アイヌの世界観」より)。

 

球根といえば無性生殖です。大原雅「植物の生活史と繁殖生態学」によれば、オオウバユリは自家受粉及び他家受粉による種子繁殖と、娘鱗茎による栄養繁殖という複数の繁殖戦略を持ちます。

花粉を運ぶマルハナバチなど(ポリネーター)が多い環境では他家受粉のチャンスが大きくなります。そうでない環境下のオオウバユリは、自家受粉と栄養繁殖への依存が強くなります。また、比較的サイズが大きくなってから開花する個体が多くなるそうです。

僕がみた果穂たちは、記憶にあるほどの大きさはありませんでした。もしかしたら、この辺りはたくさん虫が訪花する、生き物の豊かな地域なのかもしれません。田舎なのでね。

ドングリ実生の生存戦略

せっかくお正月ということなので、最近読んでいる原正利『どんぐりの生物学」(京都大学学術出版会、2019)から気になったトピックを取り上げ、思ったことを書いてみます。

 

【ドングリの子葉は開かない】

「子葉」という言葉は小学校の理科の授業で習うと思います。種の中に初めからある葉のことですね。もう一つ、「無胚乳種子」という言葉もあります。有胚乳種子と対になる用語で、栄養を蓄えた胚乳を持たない*1種子のことです。

無胚乳種子の場合、胚乳の代わりに子葉が栄養を蓄えており、種の中身の大部分はボッテリとした子葉が占めています。教科書ではマメ科の種子が例としてよく挙げられています。葉っぱが栄養を背負っている*2、なんなら可食部であるというのは、改めて考えてみると普段の葉という概念と違うので不思議な感じがします。

ナラ・カシなどのドングリも括りとしては無胚乳種子に当たります。ただし、マメは子葉もしっかり芽生えるのに対し、ドングリは空に向かって子葉が開くことはありません。いわゆる地下子葉性という性質です。仲間のブナは地上に子葉を出しますが、シイなどはナラ等と同じく地下子葉性です。

地下子葉性であるドングリは、子葉が葉緑素を持たず、ドングリの皮の中に閉じこもったまま、光合成をしないで植物体への栄養供給に専念します。そのように地表付近に身を隠すことで、動物に見つかりにくくもなるようですね。

 

【北のドングリは根を出して冬を越す】

ドングリは発芽するとき、はじめに根を出し、次いで茎と葉を出します。*3コナラやミズナラはさっさと根を出しますが、アベマキなどは落果後から春先にかけてゆっくり発根、アラカシ、シラカシといったアカガシ類やクヌギなどは春まで根も出さないそうです。

こうしてみると、ドングリが根を出すタイミングは冬の厳しさと関係しているように思えます。さっと根を出して冬を越すコナラやミズナラは、比較的北方で暮らす樹種です。早めに根を出すことで、競争が激しい春先の初期成長を迅速にするのでしょう。

 

【子葉の栄養はどこに行くのか】

一般的に、ドングリの木は根への投資を重視している樹種として知られています。芽生え(実生)も同じ傾向を示しますが、その様相は、生育環境によって異なるようです。

落葉樹林は、冬に林冠の葉が落ちているため、春先は林床が明るくなっています。そのため、落葉樹林内で芽生える実生は、春先の光をいかに利用するかが生存率を高める重要なポイントとなります。明るければ明るいほど、それを利用してどんどん大きくなることが求められます。

一方、常緑樹林は常に暗いため、そこで芽生える実生にとって、春先の成長は落葉樹林ほど重要ではありません。そういった環境で育つことの多いツブラジイやイチイガシは、地上部の発達を抑制し、地下部への配分をより高めることで、乾燥や照度不足に耐えていると考えられます。*4

また、子葉に蓄えられた栄養分は、芽生えの際にすべて使い切ってしまうわけでもありません。ミズナラを例にとると、本葉が展開した時点で子葉に貯蔵された栄養分の90%が消費されるらしいのですが、逆に考えると、10%は残っています。これは何らかの理由で地上部が失われた時の再生のために使われます。もともとドングリの木は萌芽(冬芽じゃないところから枝葉が出てくる)力が強く、子葉の余力は実生萌芽の際に役に立つと考えられます。

 

語りだすと止まらないドングリの木の話、今回はこんなところで。

*1:種子ができ始めたときにはありますが、成熟するまでに消えてしまうそうです。

*2:ちなみに常緑樹は落葉樹よりも葉に多くの栄養を持たせているため葉の食害に弱い、なんてことはまた別の話。

*3:ブナは春先に発根しすぐに子葉を展開、クリは条件が良ければ発根して春に子葉を展開、スダジイは晩春に発根+展開、ツブラジイは晩春に発根するがなかなか子葉は開かず、翌年に展開するものもいるようです。

*4:落葉樹林に育つドングリの木が根に配分しないということではありません。例えばミズナラやコナラは、ケヤキやシラカンバ等と比べると地下部を中心に物質配分する樹種であることがわかっています。

おいしい椎の実、しぶい楢の実【戦略の違い】

【シイの実は食えるという実体験】

先日、シイの実は美味しいという記事を書きました。

嫁さんがスダジイの実を食べていたという話が発端となり、自分でもツブラジイ(コジイ)の実を食べたところ、(生でも)確かに旨かった。という驚きをそのまま投稿したものです。

驚いたのは前知識があったからです。上の記事にも書きましたが、一般的などんぐりは渋みが強く、食べるのには非常にあく抜きの手間がかかる、ということが知られています。ここでいう「一般的などんぐり」とはコナラ属(クヌギミズナラ等)の果実=ナラの実ことです。

 

【どんぐりの渋さは化学的防御】

シイの実は美味しくて、ナラの実は渋い。それはわかったとします。ところでそれは何故なのでしょうか。*1

ふと積読状態だった原正利『どんぐりの生物学』(京都大学出版会、2019年)を開いてみると、この「なぜ」を説明する興味深いことが書かれていました。

シイやナラの果実は、芽生えの初期成長を助けるために豊富な栄養を蓄えています。そのため動物にとっては大変お得な食料となっており、一方食べられる側としては何とかして身を守らねばなりません。

動物から身を守る術には

・物理的防御(硬くなる等)

・化学的防御(まずくなる等)

・マスティング(いわゆる豊凶)

といったものがあり、どんぐりの渋みは化学的防御による生存戦略です。一方、シイの実は渋くないので、化学的防御は使われていないといえます。

では、なぜどんぐりの防御手法をシイの実は使っていないのか。

これを説明するヒントは「トレードオフ」です。

 

【物理的防御と化学的防御はトレードオフ

ナラの実の渋みの正体はタンニンと言われています。ナラの実が持つ化学的防御(=摂食阻害)物質にはほかにテルペノイド類や食物繊維などがありますが、中でもタンニンは食べた動物の体内で消化阻害を引き起こし、時には致死的な障害を引き起こすほどの毒物です。

一方、こういった物質の産生にはなかなかコストがかかるため、ほかの策にはあまり予算を割けなくなってしまいます。ナラの実は、例えばクリのような硬くとげとげの殻には包まれていません。体をすっぽり殻で覆って身を守るのは、いわゆる物理的防御です。もし、ナラの実がタンニン等の物質にあまり投資をしていなければ、ひょっとするとクリのような殻で物理的に身を守れていたかもしれない。でも両立することはできず、物理的より化学的な防御を持つよう進化した。そんなトレードオフが予想されています。

いま、クリを引き合いに出しましたが、これはシイの実でも同じことです。シイの実も、クリほどの鎧ではありませんが、体をすっぽり覆う殻を持っています。クリの殻もシイの殻も、ナラの実でいうどんぐりの帽子の部分、すなわち「殻斗」が発達したものです。

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 シイの実もナラの実も、茶色い皮によりある程度守られているのですが、シイの実はさらに殻斗が上から覆うことで、実が成熟するまでしっかりガードされます。しかし、殻斗を発達されるのにもコストがかかるため、この手を使うとナラの実のように渋くなるための予算が足りない、ということになります。

ナラの実が渋く、シイの実が美味しいのは、限られた能力を化学的に使うか、物理的に使うか、という戦略の違いが顕れた結果だと考えることができますね。

 

*1:実は下の本を読むまでそんなこと全然考えていませんでした。疑問を持つことは大切ですね。