【コラム】シラカンバは痩せ地に強いのか?(一訂版)

 ずいぶん久しぶりの更新となってしまいました。唐突の新規記事として、今回はふと疑問に思ったシラカンバの生育特性について考えてみたいと思います。

 シラカンバ(Betula platyphylla)はカバノキ科カバノキ属に分類される落葉広葉樹です。純林を作ることが多く、真っ白の樹皮を持つ幹が立ち並んでいる風景は、その自生地である北海道のイメージ図としてしばしば語られます。実際現在の北海道では、シラカバを含むカンバ類の蓄積は広葉樹全体の23%(2012年4月1日現在)にものぼるので、シラカンバは当地の代表的な樹種と言って差し支えはないでしょう。

 適地適木という言葉があるように、シラカンバにも生育に適した土地と適さない土地とがあります。シラカンバは一般的に明るい環境を好む陽樹であり、裸地に率先して侵入するパイオニア種だといわれています。山火事の跡地や伐採跡地に風散布種子としていち早く到来し(あるいは数年前にそうして到来したまま土中に眠っていたものが目を覚まして)、寿命が短い代わりにすばやく成長して純林を形成するのがこの樹種の得意技です。逆に最初から森が成立している土地などでは、暗くて育つことができません。またそのため、一度シラカンバ林が成立したところに次世代のシラカンバが育つことは少なく、徐々に陰樹の森へと置き換わっていくのが自然の成り行きです。したがって、我々がパッとイメージするシラカンバ林は裸地だった場所に成立した短命な二次林の姿なのであり、データとして示されるシラカンバの多さも、山火事や伐採などの後に作られたシラカンバ林の規模を強く反映しているのだと考えられます。シラカンバは今、北海道における森林再生のパイオニアとして活躍中、というわけです。

 さて、その「パイオニア種としてのシラカンバ」について、今日僕の後輩はこんなことを言っていました。

「むかし人から聞いたんですけど、シラカンバって痩せ地にもガンガン育つんですよね」

 痩せた土地にもシラカンバは生える……。確かに「パイオニア種」というと、植物が成長しにくい貧栄養な土壌の上にも立派に育つような気がします。けれどもそれを聞いて僕は「うんそうだよ!」と即答することができませんでした。僕の頭の中にあったシラカンバ林のイメージは、先述したように山火事や伐採の跡地であって、当然そこには元々自然植生的な植被があったものと想定されます。とすると、土壌はその植生(もっと言えば森林植生)が維持されるくらいの養分を蓄えていて然るべきです。そう考えていたために、シラカンバ=「痩せ地(ここでは「痩せた荒れ地」としたほうが適当でしょうね)にもガンガン育つ」とはすぐに結びつかなかったのです。

 もっとも、道路脇の法面や林道脇にもシラカンバが生えていることはよくあります。このような場所の土壌は基本的に鉱物質で腐植があまり混ざっていないため、ある程度痩せているといえば痩せています。その程度の痩せ地であれば、シラカンバの生存が可能であることは確かです。しかし僕が想定する「痩せ地」もとい「痩せた荒れ地」とは、そんなレベルの土地ではありません。後輩の言う「むかしの人」がどんなニュアンスで語ったのかは知りませんが、なんの条件もなしに「痩せている」と言うならば、本当に栄養が全然ない土地、腐植があまり混ざっていないどころか全然混ざっていないような土地、母岩の風化によるミネラルの供給も全然望めないような土地(したがって当然荒れ地以上の植被を持たない)をも想定の範囲内に置くべきじゃあないんでしょうか。「むかしの人」がそれを想定していなかったのならば、それはイカンじゃないか!?(偏屈カナ?)

 果たして、シラカンバは栄養が全然ない土地にもパイオニアとして「ガンガン」生育することが出来るのでしょうか? 例えば火山の噴火で溶岩が覆ってしまった跡地のような――。

 調べてみると、「駒ケ岳火砕流堆積地における森林造成地の推移と植生回復過程」(櫻井ら 1994)という論文がありました。これは1929年に噴火した北海道西南部駒ケ岳山麓火砕流堆積地における植生の再生過程と、1963年から同所で植栽が行われた樹木の生長成績を調べたものです。以下に抄録の一部を引用します。

 (略)調査の結果, 再生林は先駆性広葉樹であるヤナギ類, カンバ類, ヤマナラシおよびドロノキの3m以下の矮性林と, 移入樹種であるカラマツの稚樹群から構成されていた。(略)次に, 植栽工施工地でクロマツ, ハンノキ, シラカンバおよびカラマツの主要導入樹種について成績を調べたところ, カラマツは最も生長がよく最大樹高で10mに達し, ハンノキ, クロマツもこれに次ぐ成績であるが, シラカンバは極めて成績が悪かった。クロマツ, ハンノキ, シラカンバは風倒, 幹折れなどの損傷が著しい。(略)

 この研究は、確かにシラカンバも「栄養が全然ない土地」に(草本などのほうが先に侵入して土壌の下地を作っているとはいえ)先駆的に侵入するパイオニア的な木本のひとつであり、しかしその一方で成長がとても悪いことを示しています。

 調査対象の火砕流体積地に侵入したものたちはみんな風邪散布種子を大量に飛ばす戦略を持ち、またパイオニアの条件である陽樹的な性質も有しています。つまりたくさん種子を飛ばしたからこそ、上に挙げられたみんなは火砕流体積地にいち早くたどり着き、芽を出す事ができた。かつ光の条件がとても良いので、一応それなりに育つには育った。しかし、やはり栄養条件が悪いのでカラマツ以外は大きくなれない、ということなのでしょう。

 植栽の結果から察するに、おそらく適潤であればケヤマハンノキも根粒菌を従えてそれなりに頑張ることができるのでしょう(クロマツは植栽しかないので割愛)。一方で、シラカンバの成長が芳しくないのは再生林でも植栽プロットでも変わらず、芽生えは覆いのに文字通り伸び悩んでいるのが現実です。

 よって、以上から当初の問に対しては少なくとも次のことがいえます。

 「他のパイオニア種と比べれば、シラカンバが特別痩せ地に強いわけではない」

 ではパイオニアじゃない種と比べて、シラカンバは痩せ地に強いといえるのか? という問が新たに浮かんできますが、残念ながらこれは簡単に評価することができません。例えば実生の生存率で比べようとしても、ミズナラのように大きな種子を持つ種のほうが一個体一個体は生き残りやすいに決まっています。あるいは育ちぶりを比べようとしても、既に述べたようにシラカンバの成長速度が高いことは樹種としての特性ですから、それだけで優劣をくくることはできません。

 とはいえ、基本的な部分に帰ってきますが、シラカンバを含む「パイオニア種」という集団が極貧栄養地の植生遷移に果たす役割の大きさは上の研究を見ても明らかです。シラカンバはミズナラなどがすぐに入り込めないような極貧の裸地に、「ガンガン」舞い降りて行くことができます。シラカンバ林の清涼な純林を形成することはなくても、それは少しずつ有機物を蓄積していく役割を持っています。そうして長い時間をかけて、無数のシラカンバたち「パイオニア」が新たな、豊かな土壌を作り出していくのですから、シラカンバと「全然栄養がない土地」との関係を無視することはできません。そういった意味で、「パイオニアでない種」よりはシラカンバのほうが「全然栄養がない土地」の植生回復に貢献している、とはいえるかもしれませんね。
 
総括:「パイオニア種」としての性質を類型の中で比べれば、シラカンバは必ずしも貧栄養に強いとはいえず、全然栄養がない土地でガンガン生育することはできない。もっとも、ほかの「パイオニア種」と同様に、シラカンバも貧弱な土地にガンガン侵入することは事実であり、シラカンバは荒れ地の植生回復に対し一定の働きを持つ。
 
 最後に、これはスギなどを除く多くの樹種にもいえることですが、痩せ地で成長しにくいシラカンバも、外生菌根菌と共生するようになったらかなり強くなるみたいです。まったく、木の性質を一面的に説明することはできないものだなあ( ´ω`)

参考文献:略