ヤチダモの芽吹きは遅い

【自然の中での結婚式】

先日、北海道で結婚式を挙げました。式場は美しい自然に囲まれたチャペルです。

恵まれた立地を活かし、式場は周囲の自然が最大限に映えるような造りとなっています。

結果から言うと大成功の式だったのですが、実は準備段階から、僕らにはある懸念がありました。

【頑なに芽吹かない木】

6月の挙式を予約したのは年末ごろ。

それからの僕は、「きっと新緑に彩られた最高のロケーションになるだろう」と信じて疑わず、のんびりと春を待っていました。

ところが、ある日妻がスマホを指差して言います。

「なんか、緑、薄くない…?」

ネットに上がっている去年の写真を見ると、確かに5月末から6月初旬にかけての式場は、なんだか緑が薄い。一昨年もそうでした。

いや、流石に全ての木々がスカスカというわけではありません。暦の上は初夏。多くの木々が若葉を広げる中、どうやら特定の樹種の芽吹きが異様に遅いようなのです。

自分たちの挙式日にはもう少し緑が濃くなっていてくれないだろうか、と妻は心配していました。

そうだね、と返した僕はしかし、粗い写真をじっと見つめ、芽吹きが遅いこいつらはそもそも何の木なのかが気になって仕方ありませんでした。

【北海道ではおなじみの樹種】

例の木の正体が気になって仕事に集中できなくなるのをどうにか耐え、ついに念願の現地入りを果たした6月。

実際に式場の下見へ行ってみると、芽吹きが遅かったのはヤチダモでした。

イメージ 1

 

湿地を好み、北海道では街路樹にもなるメジャーな木です。

直立的な幹と水辺という環境からピンとこなかったのは不覚でしたが、現地で眺めたとたん、粗い対生と花の痕跡、そして雰囲気になつかしさが込み上げました。

そして確かに記憶を辿れば、ヤチダモをはじめとするギャップ依存性のある樹木は春先にガツガツ葉を広げる印象がありません。

【芽吹きの遅さは種としての特徴】

調べてみれば、ヤチダモの開葉の遅さは結構有名な話らしいです。

ついでに言えば落葉も早く、着葉期間は4,5ヶ月程度と言われています。

ヤチダモは霜に弱いといいます。考えてみると、この木は羽状複葉の木であり、小枝のような葉軸を毎年付け替えるため、霜で予定外に葉を失うとダメージが大きいことが推察されます。

したがって、開葉が遅く落葉が早いことは、春先と晩秋の霜のリスクを回避する点からヤチダモの生存に有利に働くのかもしれません。

【息吹を感じながら】

結局のところ、僕たちの挙式でもやっぱりヤチダモは芽吹いたばかりの姿でした。

とはいえ、写真を見て悩んでいたのは完全に気にしすぎで、実際は「緑の濃淡」が却って美しく、周りは生命の気配に満ちていました。

また、「芽吹きが遅くても、それにはきちんと理由がある」と考えれば、そんなヤチダモの姿にも愛着が芽生えます。妻も納得。

そこにある自然のことを知ることで、空間の充実を強く感じ、素晴らしい時間を過ごすことができたのでした。

 

参考URL
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcsir/2018/0/2018_228/_pdf/-char/ja
https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/73102/1/2006-25_1-3.pdf
https://www.hro.or.jp/list/forest/research/fri/kanko/kiho/pdf/kiho76-3.pdf

 

余談:

現地では、他にオニグルミやイヌエンジュなんかも芽吹きたてでした。

また、覚書として、ヤチダモをはじめとする環孔材の樹種は、前年の主要な道管が大径ゆえに寒さの害を受けるため、当年に使用することができません。その分、当年の道管は葉が開ききる時期に合わせて早めに木化し、短期集中的な成長を行うのだということです。面白いことを知りました。
https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/215672/1/shinrin.gijutsu_887_28.pdf