ウワミズザクラの出現頻度と生態

【ウワミズザクラの疑問】

僕が住んでいる岐阜の林相については、僕自身まだまだ経験的に知らないことが多くあります。

昨冬に冬芽等による樹種同定を手伝う機会があり、奥地から持ち帰って来た枝枝を調べたときはかなり勉強になりました。

ただ、樹種を調べていく中で不安になったことがひとつ。サクラ類の出現頻度が異様に高いのです。特にウワミズザクラ。

残念ながら写真には残していませんが、ウワミズザクラは落枝痕という大きな特徴を持ちます。それがあればほぼ確定と言って良いくらいです。ただし、当年枝であれば当然落枝痕はありません。

実際、落枝痕のない枝でウワミズザクラっぽいものがママあり、他の特徴からこれらはウワミズザクラだろう、と一応結論付けていたもの、あまりに頻出するので「本当にこんなに多いのか?」と悶々としていたわけです。

【やせいの ウワミズザクラ が あらわれた!】

それからしばらくして春のこと。車で高速道路を走っていると、山肌がやたら白いことに気が付きました。

他でもなくウワミズザクラの花です。

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(とある公園のウワミズザクラとハナムグリ

 

なぁんだ、やっぱりウワミズザクラって多そうだな。と一安心。

ウワミズザクラは、北海道でいうエゾノウワミズやシウリザクラと近縁です。

馴染み深いシウリザクラは林内に若木が多く、春は早くに開葉する、耐陰性の強い木でした。ウワミズザクラも、きっとシウリザクラと似たような性質を持ち、多少暗い中でも着実に育って森を賑わしているのでしょう。

【落枝の生態的意義】

ところで、ウワミズザクラの落枝現象は生態的意義が謎です。なぜ形成コストの大きな非同化器官をやすやすと手放してしまうのでしょうか。

考慮すべき要素は、形成コストのほかに、維持コスト、損傷リスク、繁殖特性、光合成効率などが挙げられます。

さしあたっては、ほかのサクラ類でいう短枝のように、大きな成長の望めない被陰下で細々と光合成を繰り返していくための仕組みと考えることができます。無駄に枝を伸ばし続けるのではなく、生産規模を縮小しながらも炭素固定に貢献し続ける策です。

短枝ではなく落枝なのは、枝を簡素化し1回の形成コストと維持コストを抑えるためでしょう。それを毎年繰り返すことで、この樹種に限っては頑丈な枝を作り維持するよりもライフサイクルコストが抑制できたのかもしれません。また、枝の伸ばし方や被食への応答も柔軟になるのかもしれません。そのあたりは、羽状複葉誕生の究極要因に通じるものがあります。

というか、ウワミズザクラは短枝を作らないのか? と書いていて気になりました。今度確かめなくては。